ピラティスの歴史と成り立ち|戦争とリハビリから始まったメソッド
ジョセフピラティスの人生|戦争を通じた健康哲学
ピラティスを語るうえで、忘れてならないのがジョセフ・ピラティス(以下ジョセフ)という人物です。彼は、1882年にドイツのドュッセルドルフで誕生しました。
ジョセフは幼少期から喘息・くる病・リウマチ熱を患い、病弱だったと言われています。そこからジョセフは、独自の運動プログラム(体操・ボクシング・ヨガ・禅・ボディービルディングなど)を積極的に行うことで、病気に打ち勝ったという経験をしています。
1914年から1918年、第一次世界大戦のさなかで、ジョセフはイギリスのマン島に捕虜として収容されていました。ジョセフはこれまでの自身の経験を活かし、収容所内の捕虜、負傷した兵士に向けて運動指導を行いました。その際、ベッドのスプリングや家具などを用いることで、独自のリハビリ運動を提供。

これが現在のリフォーマーやチェアなど、マシンピラティスの原型になったと言われています。
1923年に、ジョセフはアメリカ・ニューヨークに渡り、その道中で看護師クララと航海中に出会い、後に結婚に至ります。その頃に、ニューヨークにてフィットネススタジオをオープン。運動指導を開始しました。そして、1945年にコントロロジー(身体制御法)という概念を提唱します。
【コントロロジーとは?】
Contorology(コントロロジー)は、体と心そして精神の完全な調和を目指します。エクササイズへの適切な習得を積み重ねることで、段階的に、すべての精神的、潜在的意識活動と関連する、自然のリズムとコーディネーション(調和)を習得することができるでしょう。
Joseph Pilates,1945(一部抜粋)
要するに、コントロロジーとは、ピラティスの原点となる考え方で、体と心、そして精神が調和した状態を目指すものです。まずは、自分の体をしっかりコントロールできるようになること。そこから少しずつ、意識、姿勢や動きの流れが整い、心まで落ち着いていく感覚が育っていきます。
1945年に発刊した著書「Return to Life Through Contorology」。この書籍にも、心と体、精神の調和を目指すことを重要視した内容が記載されています。
1960年代前半になると、この運動が“ピラティス”として認知されるようになり、1970年にはジョセフと妻クララの生徒たちが、それぞれ独自の観点からピラティスを普及させていくこととなります。
ダンサー・アスリートへの広がり
ピラティスの根本的な要素にて、「動きの質を高められる」ことが挙げられており、ダンサーやアスリートの間で瞬く間に普及、信頼を得てきた実績があります。
ニューヨークのダンサーやアスリートの間で広まったのち、今ではプロサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド選手や、ラグビーの名門「オールブラックス」、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手など、世界トップレベルのアスリートもピラティスを取り入れています。

ピラティスの進化|クラシカルとコンテンポラリーの違い

クラシカルとコンテンポラリーの違いを知ろう
クラシカルピラティスは、ピラティス創始者であるジョセフ・ピラティスの原型を忠実に守るスタイルです。動きの順番、型を重要視しながら、身体と心を鍛えていく方法です。対象者としては、ある程度体力のある方や運動経験のある方のほうが向いているのが特徴的です。
コンテンポラリーピラティスは、医学や運動科学の知見取り入れ、より柔軟かつ安全に動きを導くスタイルです。初心者の方や、カラダに不安のある方、術後の方でも安心して取り組める特徴があります。
どちらが良い悪いではなく、”今のあなたに合っているかどうか”が大切になります。無理なく始められて、長期的に継続することができる。継続できるからこそ、根本から体を変えていけます。
ピラティスの成り立ちを理解したところで、次に現代の代表的メソッドの一つ「ポールスターピラティス」について見ていきましょう。
ポールスターピラティスとは?
ブレント・アンダーソン博士の背景(理学療法との統合)
はじめに、ブレント・アンダーソン博士の経歴についてお話します。
- アメリカ出身の理学療法士
- リハビリテーション分野において博士号(PhD)を取得
- 臨床で多くの患者様と関わる中でピラティスと出会う
- 医学的、科学的視点からピラティスの再構築を志す
- 1992年、アメリカ・マイアミを拠点にPolestar Pilatesを創設
- バイオメカニクス、運動学習、生体エネルギー、コミュニケーションを統合したピラティスの構築
- 「動きを教えるのではなく、動きを”引き出す“」ピラティス哲学を実践
ブレント・アンダーソン博士は、アメリカ出身の理学療法士です。リハビリテーションの分野で博士号(PhD)も取得されており、医療現場でたくさんの患者様と向き合う中で、ピラティスと出会いました。その経験を通して、ただ動きを教えるのではなく、“その人らしい動き”を引き出していくという考え方にたどり着きます。
1992年、アメリカ・マイアミでポールスターピラティスを設立。ポールスターピラティスでは、バイオメカニクス(体の動きのしくみ)、運動学習(体が動きを覚える力)、生体エネルギー(呼吸や体のなかから元気を生み出す力)、そしてコミュニケーション(相手の気持ちをくみとる関わり方)を大切にしています。
医療と科学の視点を丁寧に統合したメソッドを築き上げ、今もなお、世界中に向けてその知識と哲学を届け続けています。私自身、この学びを通して感じたのは、「動きを直す」のではなく、「動きたくなる気持ちへ導く」ことの大切さ。ポールスターピラティスは、そんな優しさあふれる、でも確かな力のあるピラティスです。
ポールスターピラティスの概要を理解したあとは、より具体的なポールスターピラティスが確かな効果を生む3つの理由について深堀りしていきましょう。
ポールスターピラティスの特徴|確かな効果を生む3つの理由
① 姿勢・動きの評価を徹底している
ポールスターピラティスでは、はじめにお客様の姿勢や動きを丁寧に評価することから始まります。私自身も理学療法士として、必要に応じて整形外科評価を含めチェックすることで、体の変化を正確に捉えます。お客様にも”お体の変化”をお伝えすることで、ご自宅でもセルフケアを続ける理由が明確になります。
なんとなく体が良くなるのではなく、「どう変わったか」が実感できる。 それが、ポールスターピラティスの大きな強みです。
②医療やリハビリの現場で選ばれる“安全なピラティス”
ポールスターピラティスは、医療やリハビリの現場で、実際に多くの理学療法士が取り入れているピラティスメソッドです。 それだけ、安全性が高く、専門職の間でも信頼されていることがわかります。
実際に、ポールスターのカリキュラムの中にはリハビリテーションコースがあり、私自身もその資格を取得しています。 そのため、お体に不安のある方や、動きに制限がある方でも、安心して取り組んでいただけるピラティスとなっています。
③ 「姿勢・呼吸・言葉で変わる、ポールスターの奥深さ」
ポールスターピラティスは、痛み・姿勢・自律神経の乱れといった幅広い不調に対応できるメソッドです。ですが、ただ“動く”だけではありません。呼吸の強弱、声のかけ方、体への触れ方など、多面的な要素から体と心にやさしく寄り添います。
ポールスターピラティスに特徴的なのが、解剖学的な専門用語に頼りすぎず、“感覚的に体が動きたくなる言葉=イメージキュー”を用いるスタイルです。 一人ひとりの生活スタイルや趣味嗜好などを想像して、お客様がイメージしやすい言葉に置き換えてからだ本来の動きへと導きます。
「肺が大きな風船のようにふくらむのを感じてみましょう」と呼吸を誘導したり、「コーヒーを飲んだあと、ホッと一息をつくようにやさしく息を吐いてみましょう」といった言葉で、自然な体の動きを引き出します。

私自身も、ポールスターの学びを通して、「動きを引き出す言葉」は必ずしも専門的である必要はなく、その人にとって“イメージしやすい言葉を選ぶ”ことが、体本来の動きを引き出してくれるという実感を得ました。
「どう動けばラクになるか」だけでなく、「どう伝えればその人が自然に動けるようになるか」まで考え抜く。だからこそ、ポールスターは“やさしく、でも深く”変化を引き出せるメソッドなのです。
ここまでポールスターピラティスの利点について解説してきました。次に、どのような方にポールスターピラティスが向いているのかを解説していきます。
どんな人に向いているのか?

ポールスターピラティスが向いている方
① 健康不安を抱えている人
「最近つまずきやすくなった」「疲れが抜けにくい」「段差に不安を感じる」──そんな体の変化を感じる方に。 ポールスターピラティスでは、姿勢や動作を評価したうえで、その人に合った無理のない動きで筋力・柔軟性・バランス感覚を底上げしていきます。 ポールスターにはリハビリテーションコースがあり、私自身もリハビリテーションコースの資格を取得しています。手術後や保存療法中で、体に不安を抱えている人にもおすすめできるピラティスです。
② 疲れやすさ・ストレスから解放されたい人
「体がだるい」「眠ってもすっきりしない」「常に緊張しているような感じがする」──そんな声に、ポールスターピラティスはやさしく応えてくれます。 呼吸を深め、姿勢を整え、やわらかな声かけで体と心の緊張をゆるめていくことで、自律神経のバランスが整い、心にも余裕が生まれます。
③ 姿勢や動きの美しさを身につけ、自分に自信を持ちたい人
ポールスターピラティスでは、姿勢を“ただ矯正する”のではなく、その人本来の軸や動きの流れを整えることを大切にしています。 その結果、外見だけでなく、内側から安定した美しさが生まれ、「動きやすい」「立っているのがラク」といった感覚も自然に身についていきます。
ポールスターピラティスは、運動が得意な人だけでなく、 “これまでなかなか続かなかった”という方にも、体の内側から無理なく変化を促すメソッドです。 ご自身に合った方法で、今の体と、これからの暮らしをやさしく整えたい方に、ぜひ知っていただきたいピラティスです。
ポールスターピラティスが向かない方
一方で、以下のような方には、他のメソッドやスタイルのほうが合う場合もあります。
- 短期間で高いトレーニング効果を期待する方
- 動きの流れやテンポを重視し、決まった型に沿って繰り返し動くスタイルが好きな方
ポールスターでは、「評価」→「課題の整理」→「動作再教育」という段階的なプロセスを大切にしています。
そのため、派手な動きや即時的な変化よりも、身体の内側に意識を向ける“静かな気づき”や“繊細な変化”を重視するのが特徴です。
まとめ
ピラティスには様々な流派がありますが、どれが正解なのかは人によって異なります。正直なところ、ピラティスを始めてみたいと考える方にとっては、どれも一緒に見えてしまうと思います。
だからこそ、私自身が大切だと思うのは、“自分自身で一度調べてみて、納得できたものを選ぶ”ということ。だけど、最初は面白そう。興味あるなー。から始めてもらって良いと思います。ひとまずやってみることが大切です。
その中で、自分自身に合う合わないが明確になっていきます。ピラティスは継続していくことで、体を根本から整えていくことができる素晴らしいメソッドです。
私自身は、ポールスターピラティスに出会い、「確かさ」と「一人ひとりへの優しさ」を大切にするこのピラティスメソッドに出会えて、心から嬉しく思います。ピラティスを一通り終えたあとは、“体と心が軽くなるなー。気持ち良いな。”そんな実感を持って日々を過ごすことができております。
この記事が、あなたが自分の体とやさしく向き合うきっかけになれば嬉しいです。